長野県を代表するローカルフードの第３回目は、長野県の北、奥信濃と呼ばれる飯山市周辺を訪ねてきました。新潟県境の豪雪地帯で、とりわけ厳しかったこの冬の豪雪の爪あとがまだ色濃く残っています。水田にはなかなか融けない雪、果樹園には倒れたぶどう棚、道路にはぐにゃりと折れ曲がったガードレールや標識が、豪雪のすざまじさを物語っていました。そんななか、復旧のためにりんごの樹を協力して起こす農家の姿が見られ、人間のたくましさを垣間見た思いです。飯山地方は四季がはっきりとしており、春がこれほど待ち遠しかった年も久しぶりです。
富倉そばが幻といわれる理由
飯山と新潟県の北国街道（国道18号線）新井宿を結ぶ飯山街道（国道202号線）沿いにある富倉地区で有名なのはそば。８０日で採れるそばは、じゃがいもの後作として種を播いたり、山の畑では年に３回くらい播いたそうです。とくに富倉のそばは土目（土質）と気候のせいで味もよいことで有名だそうです。そばの特徴は、つなぎにやまごぼう（オヤマボクチ）の葉を使うこと。つなぎになる小麦粉がとれないための独特の方法で、コシが強くなめらかなそばになります。やまごぼうの葉は、６月頃に山で採れます。それを干して、もんだり、たたいたり、煮たりしながら、白くてやわらかい繊維を取り出します。さらにそれを何回も水洗いしてから乾燥させて保存します。やまごぼうの葉をつなぎでつかうそばを打つのには、手間と時間と並ならぬ技術が必要なのです。
北信濃はそば好きの聖地
飯山市には、大きく分けて、富倉そばと雪割そばの二種類のそばがあるのですが、その他にもこだわりの製法によるそばがいくつもあります。そこを抜けて通る道はそば好きの人たちにとってはメッカにもたとえられ、いつのころからか「北信州いいやまそば街道」と呼ばれるようになり、飯山市の各地で、宿やそば店が自慢の腕を競っています。もしあなたがそばの心髄を味わいたいと考えているのなら、このそばの里へ一度は味わいに来なくてはなりません。もちろん一度といわず何度も足を運ぶそばの道の求道者もたくさんおられます。
いっそそば畑のオーナーになりませんか
飯山市なべくら高原の「森の家」では、そば畑のオーナーを募集しています。この企画は今年で１０回目。料金は１区画（２０ｍ３畝）５０００円で、種、畑耕作、管理、収穫、乾燥、お土産、箱代です。種まきや収穫では冷や汁やきのこ汁のサービスがあり、イベントも予定されています。詳しくは、なべくら高原森の家のウェッブサイトで。
なべくら高原森の家
長野県の文化財にもなった笹ずし
そばとならんで富倉でもうひとつ有名なのは笹ずしです。上杉謙信の兵にふるまったのがはじまりと言われており、別名「謙信ずし」とも呼ばれます。笹の葉の１枚ずつに飯と具をのせるにぎりずし風のものと、大きなすし箱を使う押しずし風の２種類があります。酢をきかせた飯を抗菌作用のある笹の葉にのせるという二重の防腐作用があって、保存食や携帯食となりました。白いうるち米にもち米を１割くらい入れて炊き、濃いめのすし飯をつくります。そこに山菜やくるみなどの具をのせるのです。最近は彩りとして卵焼きや紅しょうがなどものせ、晴れ食の趣きが強くなってきています。この押しずし風の笹ずしは、山笹のほのかな香りが絶妙な風味をかもし出す第１級の郷土食として、平成１２年には長野県選択無形民族文化財（味の文化財）に指定されました。
菜の花と山菜のシーズンはこれから
飯山地方の春と言えば、菜の花が有名です。雪の下で冬を越した野沢菜がとう立ちして、一斉に黄色の花を咲かせるのです。飯山市瑞穂地区の菜の花公園周辺では、ゴールデンウィークの「いいやま菜の花まつり」に向けて、準備が進んでいます。今年は雪が多かったので、菜の花も遅れ気味。菜の花の状況や、ナノハナ・フェスティバルのことなど詳しくは、いいやま菜の花まつりのページから。
また、この地方は特に山菜が豊富なことも特徴のひとつです。半年近く続いた長く厳しい冬が終わり、遅い春が訪れると山菜が一斉に芽吹いて来ます。雪深さと山菜の豊富さはおそらく関係があるのかもしれません。こごみからはじまる春の山菜は、ぜんまい、わらび、山うど、たらのめ、こしあぶら、山たけりこ（ネマガリダケ）などなど。飯山市常盤にある道の駅「千曲川」（右写真）には、これから飯山地方の山菜が並びます。
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