いのちのための土づくりを体験しよう

土づくりは大切です土づくりは農業の基本とよくいわれます。その土の中になにがふくまれているかご存知ですか? 土には、土になるまでの過去が入っているのです。石のかけら、生きていたり死んでいたりする動物や植物、生物の多くはほとんどが肉眼では見えない微生物だったりします。そして水と空気。そうしたものから土はできています。人は食べ物というかたちでさまざまないのちをいただいて生きて(というよりも、生かされて)いますから、農畜産物を育む基礎となる土づくりは、そうした土の中で生まれて育つあらゆるいのちそのものに直接間接につながる大切で奥が深い作業なのです。

農の世界へ、ようこそ
安全・安心に関心が高まっている今、農業の生産現場でも環境保全型農業への取り組みが進み、化学合成農薬の使用を減らす、また、その代替として天敵などを使った害虫の防除技術を取り入れるなどさまざまな試みがおこなわれています。また、化学肥料の使用を抑え、有機質の堆肥を田畑に入れるなどの工夫もされています。農薬を一切使わず、有機質堆肥だけで生産できればよいのですが、生産量を極端に落とさず、虫喰いや病害のない生産を持続的に行うための技術は、一朝一夕にいかないのが難しいところ。環境に配慮しつつ、安全で安心な農産物を生産するために、最も重要な技術、それが土づくり。この土づくりがしっかり出来ていれば、農作物の本来の生命力によって、多少の病害にも負けない健康的な成長をすることができます。

しかし、一言で土づくりといっても、非常に多くの要素が関係して来ますし、作物の生産によって土の中の生態系は大きく変化します。自然の力を利用して、生産を続けていく農業の難しさを凝縮したのが土づくりと言っても過言ではありません。今回は、この土づくりについて、基礎となる知識を学び、今年はひとつプチ農園にチャレンジしてみませんか? 家庭菜園でも、プランターによるベランダ菜園でも、農作業は楽しめますよ。

よい土とはどんな土が「よい土」か?
健康な土とはどういったものなのでしょうか。空気がたくさん含まれ、ふわふわと柔らかく、水はけや水もちが良く、必要な養分が十分に含まれていて、酸度が偏っていない土。さらにミミズなどの小動物や土壌微生物がたくさん住んでいるのが優れた土ということになります。学問的に整理すると「物理性」「化学性」「生物性」の3つが重要になります。

土の物理性
まず「物理性」ですが、柔らかくてふわふわしている土というものは、団粒構造のある土です。土の粒子が団子のように集まって団粒をつくっているのです。逆に硬い土というのは単粒構造で土の粒子がぎっしりと詰まった状態になっています。団粒構造の土は隙間が多く、空気や水をたくさん含むことができますので、通気性が良く保水性や排水性も良くなります。

このことが、根にたんさんの酸素を送り、水を供給することができるだけでなく、根も深くまで張ることができるので植物の成長がよくなるのです。隙間を使って水が上がったり下がったりできますので、水が多すぎたり、乾燥したりするのを防ぎます。

では、この団粒構造というのは、どうやってできるのでしょうか。これは有機物の分解生成物である腐食という物質や、微生物の働きで作られるのです。つまり、土の中に有機質を入れるのは、単に栄養分を補給するということだけではなくて、柔らかい土をつくる、つまり土の物理性を良くすることにつながるのです。

土の化学性
次に「化学性」です。「化学性」とは、土の中の栄養分のこと。植物に必要な栄養分として有名なのは窒素(N)、りん(P)、カリウム(K)をはじめとして16種類の必須成分が認められています。栄養分は不足してもいけませんが、過剰でもいけません。

つまり、いろいろな栄養分がバランス良く含まれていることが大切なのです。有機物や有機質肥料は、土の中で徐々に分解されていきますので、栄養分が過剰になったり、不足したりすることがなく、たくさんの成分が含まれていますので、バランスも良くなるというわけです。

また、化学性で大切なのは酸度が適切であること。よく、家庭菜園の入門書に石灰をまいてから耕しましょうと書いてありますが、石灰は酸度が強い土壌を中和する働きがあるからです。

さらに、土の中に腐食という物質が増えることで、肥料成分を保つ働きや、肥料の効率を高める働きがすすみ、さまざまな障害を緩和することができます。土に有機物や有機質肥料を入れることで、「化学性」が高まるのです。

土の生物性
3つめは「生物性」です。土の中にさまざまな生物がいると、いろいろと良いことがあります。たとえば、ミミズはトンネルを掘ったり、有機質を食べて分解したりしますし、微生物は有機質をさらに分解して作物が栄養として摂取できるようになるまで働いています。有機質が多い土の中ほど、たくさんの生き物がいますし、生き物が多くいる土が良い土ということになります。

健康な土の中には、こうした生き物が天文学的な数字で生きているのです。

有機質肥料は目的にあわせて
このように、土づくりで3つに整理した、物質性・化学性・生物性について、どれにも関係し、重要な役割を発揮するのが、有機物や有機質肥料であるということがわかっていただけたでしょうか。では、よい土づくりのためには、とにかく有機質肥料を入れればよいかと言うと、事はそう単純ではありません。

有機物や有機質肥料は、化学肥料とは異なります。生物が分解して初めて作物が吸収できる栄養分になるという点は、先ほど述べました。有機物や有機質肥料は大きく分けて動物由来のものと植物由来のものがあって、動物由来のものは、比較的分解も早く、植物由来のものは分解が遅いという特性があります。

ですから、栄養分を早く作物に与えたい時は魚粕や鶏糞などの家畜に由来した有機質肥料が適しています。反対に、土質を改良したい時などは、稲藁や落ち葉といった植物由来の有機物を土に入れるのがよいのです。また、有機質肥料にはとても多くの種類があり、それぞれ特徴がありますから、使用する目的や方法に合わせて考えることが重要なのです。

もうただの土ではありません
今年は野菜づくりに挑戦しませんかどうですか? 土づくりをする上での基礎的な知識の一端に触れていただきました。なかなか奥の深い世界だとは思いませんか? たとえわずかでも自力で食べ物を作り、そのいのちをいただくことで、すべてのいのちの大切さを考える1年にしてみることをおすすめします。

参考図書
「人と環境に優しい環境保全型農業」関口昭良著
財団法人長野県農林研究財団刊行
〒380-0826 長野県長野市北石堂町1177-3JAビル内
TEL 026-236-2020 FAX 026-236-2023
http://www.janis.or.jp/village/nourin/navi.htm
「土づくりガイドブック」長野県ほか

参考リンクス
arrow2.gif 国立科学博物館ホームページ「土壌の世界」
arrow2.gif 「今年はあなたも野菜を育ててみませんか」(長野県のおいしい食べ方アーカイブス 2005年3月15日)

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