梅雨が明けて、太平洋高気圧と共に本格的な夏がやってきました、信州にも。山国とは言え、街の中では暑い日は同じように暑く、そこはやっぱり「涼しい所」に行きたくなります。しかも、スガスガしくなれて、気分が晴れ、気持ちがよくなって、それ以後ときどき家族やあの人と行ってみたいと夢想することになる場所なら、わが信州には数多くありますけれど、読者の方々にどうしても行っていただきたい場所を編集部でひとつ紹介しようと思いたち、意見のほぼ合意を取り付け、今回は夏シーズンがはじまったばかりの乗鞍高原に行ってくることにしました。
乗鞍高原は、松本市安曇(旧南安曇郡安曇村)に位置し、乗鞍岳(標高3,026m、主峰:剣ヶ峰)の東側の麓に広がっている高原です。岐阜県との県境に位置し、上高地にも近く、北アルプスの山の連なりでいうと、乗鞍岳は最南端にあって、北にむかって焼岳、槍・穂高連峰とつづき、南にはあの「野麦峠」があります。標高約1100mから1800mと、聞いただけで涼しそうな場所です。当然エアコンなんていりません。街の音もありません。
「乗鞍には有名な滝もあるんだよ」の声
標高1800mより上はマイカー規制がかかっていて、自家用車の乗り入れはできませんが、シャトルバスでなら2700m付近まで行くことができ、そこから登るのなら「最も気軽に登頂できる」と言う人もいるぐらいの、いくつものピークが連なる3000m級の大きな山です。しかも乗鞍高原には温泉もたくさんあり、中でも乳白色の温泉は大人気です。人気の『日本百名山』のひとつに登って景色を眺めるのもなかなかのものですし、自分はゆっくり温泉につかってお肌スベスベなんていうのもいいなあ・・・などと思いあぐねていたところ、高原に在住の友人が「乗鞍には有名な滝もあるんだよ」と教えてくれました。運命的に滝好きの小生のやる気がその一声でむらむら、もう温泉に浸かってスベスベになっている場合などではありません。暑い夏の日には、高原の滝で涼むのが「粋ってもんよ」とばかり、早速滝巡りに出発です。
乗鞍岳をめざすのぼりの道をひたすら進み、自然保護センターを過ぎた先にある乗鞍高原温泉スキー場の近くの休暇村「乗鞍高原」(松本市安曇4307)という施設の無料駐車場に車を置き、散策開始。湿地では木道がきれいに整備されていて、苔むした木々や水芭蕉の葉っぱが迎えてくれました。そしてまずやってきたのは牛留池(うしどめいけ)。やっぱり高原の中でも水辺の涼しさは違います。池越しに乗鞍岳をきれいに望むことができ、雄大な眺めに心奪われてしまいます。このあたりではアオイトトンボをたくさん見ることができました。
牛留池の近くでこんな木を発見し驚きました! 「ねじねじの木」と呼ばれる松の木で、なぜかぐるりと一回転しています。回った部分の一番下は地面に着いていないんですよ。頑張れば大人が通れるくらいの大きさなので、実際見ると結構大きいのです。円を描いて立ち直ろうとする自然の力はすごいです。自然の脅威ってやつですかね。感じ入ることが多い乗鞍です。余談ですが、じっと見てるとなんだか動物の横顔にも見えてきませんか?・・・見えませんか、、、
朝なら水しぶきで虹が見えることも
そこから更に30分ほど歩くと、最初は小さく、やがてだんだん大きく、水の音が聞こえてきました。そこにあるのが「善五郎の滝」です。この滝には、昔々善五郎という人が、滝壺で釣りをしていた時、かかった巨大な岩魚(いわな)に引きずり込まれ、やっとのことで這い上がり、命からがら逃げ帰ったという言い伝えがあるそうです。落差21.5m、幅8mの滝で、そんなに大きな滝ではありませんが、ストレートに落ちる様子はきれいで迫力があります。朝だと、水しぶきで虹が見えることもあります。
さらに脚を伸ばして一ノ瀬園地にあるあざみ池にも行ってみました。池の中に木が生えていて幻想的な雰囲気。この辺りでニホンカモシカを目撃したという話も聞きました。運が良ければ・・・と思いましたが、運悪くこの日は会ってもらえませんでした。すこしくやしいです。
こんな滝はそうありません
乗鞍高原に向かう道で、マイカー規制区域が始まるのが、およそ標高1800mの三本滝レストハウスからです。夏の季節だけ、ここまでなら車で乗鞍岳に近づけます。そしてそのレストハウスの駐車場から、すこし山道を歩いて、健脚なら15分、のんびり歩いて20分のところに、日本の滝100選にも選ばれている天下の名瀑、「三本滝」があります。
三本滝は山から流れてくる2本の川の合流する地点にあり、それぞれに異なる水源から流れる三本の滝を、まるで三本の滝に囲まれるように一カ所から見ることができる貴重な滝です。名前は右から「黒沢」「矢沢」「無名沢」です。向かって右の滝は黒色の溶岩の上を激しく流れており、一番近くまで行けます。近づいて見上げると圧巻。すごいです。真ん中の滝はストレートに豪快に、矢のように流れ落ち、水しぶきが太陽の光に照らされキラキラ光り、きれいこのうえありません。向かって左の滝は水量は少ないものの、静かに流れ落ちている様には、えもいわれぬ趣があります。このように三本の、表情の異なる滝を一度に見られるなんて、得した気分になります。
乗鞍高原には善五郎の滝、三本滝の他にも「番所大滝(ばんどころおおたき)」という落差40mの荒々しい滝があり、3つ合わせて「乗鞍三名滝」と呼ばれています。
気持ちいいから長くいたい
滝はマイナスイオンが発生していると言われますが、なんといっても滝の周辺は他よりも一層涼しく、空気もおいしいため、とても気持ちがよく、長くいたい場所です。近づいて細かいミスト状の水しぶきを浴びるのも、気持ちがいいものです。思った以上に濡れることを保証しますから、レインコートやパーカを着て行かれるか、乾いたタオルなど用意しておいてください。カメラやガイドブックなどは濡れるのでご注意を。
滝や森の散策だけでなく、温泉、サイクリング、もちろん登山や大雪渓でのスキー、スノーボードなども楽しむことができます。暑い暑い猛暑が予想される今年の夏。さわやかさを味わいに「乗鞍」まで来てみるのはいかがでしょうか。
思うこと多い今年の夏は、乗鞍へ。
参考サイト:
・休暇村「乗鞍高原」案内
・乗鞍自然保護センター
・日本の滝100選 三本滝(長野県松本市)