日本三大桜のひとつ高遠で桜の守り人に聞く

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先週の水曜日に開花し、今週の月曜日に満開を迎えた信州・高遠の桜。今まさに春爛漫。一面ピンク色に覆われた艶やかさに、さながら別世界に居るようなひとときの楽しみを持った方も多いことでしょう。「日本三大桜」のひとつ、名にし負う「高遠の桜」。しかしその桜の管理をされている方と面会するために高遠に出掛けた時は、1日、また1日と開花宣言の予定がずれ込んだ今年の、咲きそうで咲かない蕾がうらめしく思えた開花前日のことです。日当たりの良い場所ではほんの一部、ほころぶ花びらが見られたものの、標高803メートルの高遠城址公園の敷地内の桜はまだ蕾。しかし開花を直前にしてその膨らみはじゅうぶんに大きく、しかも赤みの強い蕾を多く携えた枝によって園内一帯は薄ぼんやりと赤く染まって見えました。

花見見物に訪れて園内につめかけていた気の早い大勢の人から、「どうしたぃ、今年は・・・、まだ咲かないねぇ・・・いつ咲くんかい」と声を掛けられ、また「早く花を咲かせてくれよ」などと言われていたその人物こそ、この高遠城址公園をはじめ周辺の伊那市内の桜を維持し育てている桜守(さくらもり)の稲邊謙次郎(いなべ けんじろう)さん(66歳)なのでした。

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この場所、この時期ならではの桜の楽しみ
高遠城址公園内に植わる桜は、その名も"タカトオコヒガンザクラ"。この花の特徴は、コヒガンザクラよりも赤みが強く、花弁は小ぶりなこと。花は咲きはじめの頃は白く、それが紫外線の影響か、時が経つにつれ赤みが強くなるそうで、この少し濃いめの花びらが晴天をバックにしたとき、どこまでも澄みきった青空にくっきり映えてたとえようもなく美しく、また残雪のアルプスを背景にした景色も、この場所、この時期ならではの桜の楽しみ方です。

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天下第一の桜を守る任務
公園の桜は、明治8年、荒れたままになっていた高遠城址に旧藩士たちが城外の桜の馬場から樹を移植したことにはじまりますが、今では5.4ヘクタールの敷地内におよそ1,500本の桜が植わり、その様子は「天下第一の桜」と称されるほどです。この桜の桜守の仕事をひとことで言えば「コヒガン桜の種を維持・保存し育てること。そしてお客様に桜を知ってもらうこと」と稲邊さんは言いました。

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稲邊さんは伊那市内に多くの桜の樹を植える活動を行っているだけでなく、また「伊那の桜ばかりでなく日本全体の桜が良くなって欲しい」と願う心の持ち主で、調子の悪い桜があるからと声が掛かれば県内はもとより県外へも出掛けることがあります。毎日のように1本の樹を根元から枝の先までよく見つめ、「傍からはブラブラしているように見えるかもしれませんが」と笑いながら前置きをして、「言葉を発しない樹が発信するサインに素早く気付いて対応するようしています」と付け加えます。

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具合の悪そうな樹を見つけたり、またそうならないよう早めの対処をするなど、さらに『そろそろ世代交代したいなぁ』という桜の樹の思いを感じ取るのが仕事です。

「サインを見逃さないため、そして異常気象が叫ばれる現代の、気候を上手に取り込んで、自然に任せた状態の中でどう実らせていくか― そのためにも、学術ばかりでなく自分のセンスを磨くことが大切なんです」

さらにまた他所へ素晴らしい桜を見に出掛けて行くことはあっても、そこでの方法を真似て同じ管理にすることはなく「高遠には高遠だけの、この場所でしかこのように咲けない桜があるからで、仮に同じ方法で管理を行おうとすれば桜は狂ってしまうでしょう」と言います。

大事に至らせないために大切なこと
「楽な仕事ほどいい仕事」とも言う稲邊さん。「日々の管理を怠りなくきちんとしていれば、大事に至ることはありませんが、しかし毎日のちょっとした積み重ねをやり過ごしていると、後でそのツケが大きくなって現れるから、そんな突然の大仕事とならないようにすることが結局は楽で、良い仕事をしていることになるんです」と。まるでこの話、わたしたちの日常にも当てはまるではありませんか。

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とはいえ高遠城址公園は、国指定の史跡となっているほか公園の桜は県の指定天然記念物でもあり、そんな中での作業には制約も多く、「土を掘ってはいけない」ということもそのひとつ。そのため地上の樹を見て地下の根がどうなっているかを想像し、先を見越した樹の手入を行うことになるそうです。

樹を育てる、人を育てる
現在この公園には、稲邊さんのほかに60代が1名と20代1名の3名が桜守として働いていますが、「ここの管理をする人たちの桜に対する考え方を共有しておくこともまた大切」と稲邊さん。

たとえ手入れをする人が変わった場合でも、方法を共有することで樹に負荷を与えないためであったり、また人それぞれモノの考え方は異なるものですが、桜については、みなで議論を重ね、剪定や管理方法など考えを共有することで、これからも桜の名所として維持・発展していくことを目指しているからです。

「この仕事は、樹を育てることと人を育てることは一緒で、その割合は半々くらいかな」と、人間より長生きする樹のことを、若い世代に引き継いでいく必要性を稲邊さんは感じています。

桜守になって13年、ほぼ毎日のように桜に接しながら感じるのは「桜は生命力が強いこと。それは動物よりも力強い生命力を感じます」と言う。桜の樹は今まで花を咲かせていた樹が弱ろうとも、今度はその脇から生長している樹が大きくなるなど、世代交代を繰りかえしながらさらにまた生きながらえることになるのです。

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生き物が元気で生きられる環境を
稲邊さんが守り育てているのは桜ばかりではありません。桜の木々が生きているこの環境もまた桜守たちが守護するもので、ある時を境に見られなくなっていた昆虫や動物などの生物がまた、安心して暮らせるすみかと帰ってきたりして、自然の状態に近い環境を作りあげてきたのでした。

「小さなものはミミズから、大きな動物になるとタヌキにキツネ、そしてフクロウなど様々な動物が高遠城址公園内にはやってきます。そしてそんな動物が行き来する場所にある桜ですから、樹がかじられることだってもちろんありますが、それは当然のことで仕方ないでしょう」稲邊さんはさらりと言って「桜だけが良くてもだめなんです。生き物が元気で生きられる環境だから、桜も元気で生きられるんです」とつけくわえました。

また一見作業の手間を惜しんでいるかに見える地面に生える雑草や、落ちたままの枯れ葉も「じつは桜にとっては栄養分に変わる大切なもの」として取り除かないほか、樹に集まる虫もまた、その虫を餌として食べに来る鳥がいるのですから、虫を取らないように意識をはらうなど「そんな循環型の環境を作り上げるのに10年かかってりましたが・・・でも環境はいきなり変えるのではなく、徐々に変えていくのがいいんです」と穏やかな表情を見せます。

自然に親しむことが好きで、それを仕事にしたいと、東京でのサラリーマン生活を辞めてIターンし、長野で森林組合に在籍後、現在の仕事である伊那市の桜守となった稲邊さんは最後にこう言いました。「高遠の桜を日本一にするのはもちろん、わたしは世界一にしたい」

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桜の話を聞いてみたくありませんか
あなたが縁あってこの地を訪れた際には、桜はもちろんのこと、様々な生き物が安心して暮らす自然環境の中で、存分に心身を癒してみてください。現在、高遠城址公園の桜見物では、ただ咲きほこる桜の花を見てもらうばかりでなく、もっと桜に興味をもってもらおうと、希望があれば、桜の話もしていただけます。

お問合せ:

財団法人 伊那市振興公社東部支所
住所:伊那市高遠町西高遠350‐1
電話:0265‐94‐2239


参考サイト:

 ・高遠城址公園さくら祭り公式ホームページ

 ・高遠城址公園「高遠閣」からのライブカメラ


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