新芽が出はじめ、緑のよい香りが漂う晩春の山にいってきました。目的は、そう、山菜採りです。山菜といえば、タラの芽やフキノトウ、わらび、こごみなどを普通はイメージされるかもしれませんが、今回の山行きの狙いは、近ごろでは「山菜の女王」とも呼ばれて最近ではタラの芽をしのぐ人気の「コシアブラ」を、山菜採り名人に同行して探すことにあります。
山菜のクイーンに会いに行こう
ウィキペディアには「同じウコギ科のタラノキやウド同様、山や丘、林道脇など、開削・伐採された日当たりのよい明るい斜面に多く、春先に伸びる独特の香りを持つ新芽は食用となり、山菜の一種として扱われる」と記されています。
入山したのは上水内郡飯綱町にある某山。以前当ブログマガジンの「蜂追い記」で取材をした場所とおなじ山です。実はあの時の取材で、山菜採り名人があらかじめコシアブラの木があることに目をつけていたのです。
コシアブラの若芽は美味
山道を車で登ること30分。到着すると着替えをして山歩きのスタイルになりました。長野県で低山の山歩きと言えば足元は「長靴」です。雪かきなどでも活躍しますが、山菜採りに山へ入る時にもこれは欠かせません。長靴を履いて準備が整うと、山菜取り名人から「コシアブラ」の木の特徴や注意点について、簡単な講義を受けました。
こしあぶらの木(上写真) コシアブラ。名の由来は、この木から樹脂液を採って、それをこして金属の錆止め油や塗料に使ったことから。日本列島に広く分布しており、地下茎を伸ばして増えていくために、一面に群生する。形だけでなく味も「タラの芽」に似ていますが、より灰汁(あく)が少ないというか柔らかい感じ。コシアブラの木は、灰色で、幹はまっすぐ伸びています。大きくなると20メートルにもなるそうですが、意外と足元に1本だけひょこっと生えていることも。葉は、3から5枚の小さな葉からなる掌状複葉で小さな葉には、トゲ状の鋸歯(きょし)があります。葉は薄いわりに硬い感じで、葉の裏には淡褐色の軟毛が生えています。8月頃には花が咲き、球形の実をつけた後、熟すと黒紫色になります。また、木材としても重宝されており、滑らかで彫りやすいことから、彫刻の素材にも使われます。
いざ山の中へ
土地が肥沃な山で取れるコシアブラの若芽はたいそう美味なのだそうです。驚いたのは「コシアブラ」の木が漆の木と似ていること。気づかずに触ると後々大変なことになるとおどかされました。講義が終わると、さっそく出発です。名人の後に続きます。落ち葉が沢山積もっていて少しでも気を抜くと滑って転びそうなので、若干緊張しながら山の中へ足を踏み入れました。
山歩きは、少し高いところから谷へ下りて、また登るというルートを辿ります。歩きはじめてしばらくは、コシアブラなどまるで、ひとつも見当たりません。そもそもコシアブラの木が探せないのです。
見えるようになるまでは見えない
ふと前を歩く山菜取り名人の手を見ると、すでにコシアブラの若芽をつかんでいるではありませんか。山菜採りの名人の目には、山の中が冷蔵庫の野菜室のように見えているに違いありません。
見えているのですけど見えますか?
横に広がって歩くことしばらく、ようやくコシアブラの木を見つけました。目が馴れてきたのでしょうか。コシアブラの芽をしげしげと見ていると、幼いころに山菜を採りに行ったことを思い出しました。無我夢中で山菜採りをしていた子供の頃。その頃は自然を味わう余裕などありませんでした。それなりに年齢を重ねた今は、山菜採りを通じてすこしだけ自然を感じることができたように思います。風景のおいしさはもちろん、特に、芽吹きのためか、自然の気というか、冬を越えて生命を吹き返した木々の緑の香りが、全身に満ちあふれました。
山菜の女王さまとご対面
一時間ほど山菜採りをし、自動車へ戻り収穫の成果を見せあいました。名人の成果は、随行者の収穫量のざっと2倍はあったでしょうか。はじめから年季の入り方が違いました。
おいしく、ありがたく、いただきました
帰宅し新聞紙のうえに成果を広げました。コシアブラにはたんぱく質や脂肪が豊富に含まれているので油料理が合うと聞いていたので、とりあえずは天ぷらにして食べてみました。ひと噛みすると山菜独特の風味が口に広がり、若干の苦味が上品で心地良い感じです。当然ですが、野菜や果物と同様に採り立てが一番おいしいのです。名人のおすすめは、胡桃和えだとか。もし機会があればお試しください。
山菜の女王「コシアブラ」を採りに春の山へ入り、北信州の自然の良さを改めてかみしめることができました。深い緑色と若芽の色がまだらになった春の山や、木々など一気に生長する夏にむかう山は、芽吹きの生命力や、元気をもらえる場所。みなさんも、時と場所を選んで自然の中へ足を踏み入れてみてください。すがすがしく、元気になりますよ。