千曲川の初夏の風物詩、それはつけば料理

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つけ場(ば)とは、春から初夏にかけて千曲川にできる淡水魚ウグイ(ハヤ)漁のための仕掛けのこと。ウグイは産卵期になると川底の砂利に産卵しますが、この習性を利用して人工の産卵場所を作って、投網などでつかまえます。

 

 

もともとこの「人工の産卵場所」を「たねつけば」と呼んだことから、その名がついたといわれますが、現在では獲れたウグイをその場で調理し、川辺で食べさせる野趣あふれる小屋が季節営業するため、地元では「つけ場」と言えば、この小屋にウグイを食べに行くことをさします。

 

つけ場小屋

川を眺めながら食す
千曲市戸倉上山田温泉の緑地公園内で、つけ場小屋を営む川萬寿(せんます)では、天然のウグイを塩焼き、魚田(ぎょでん=山椒味噌で田楽にした焼き魚)、天ぷら、から揚げなどで味わうことができます。

 

ウグイは産卵期になると餌を食べないために、内蔵はきれいで、川魚特有の生臭さは無く、淡白な味が楽しめます。水槽に入れたウグイをすぐに調理するので、活きが良く、ヒレがピンと立った状態で焼かれたウグイは、まるで泳いでいるままの姿。そのウグイを川を眺めながら食するのは、なんとも贅沢な感覚です。

手打ちそばと魚田

川魚のほか代表の半崎幸子さんがその日に打ったそばも食べることができます。つけ場の仕掛けは、鮎釣りが解禁となる6月中頃に撤去されますが、川萬寿では6月になると鮎もメニューに出す予定です。

arrow2.gif 「季節料理 川萬寿」千曲市戸倉上山田温泉公園緑地内 TEL 026-275-0019

土地によって異なる呼び名
ウグイは関東ではハヤと呼ばれますが、中部から関西では「鵜(う)が喰う魚」という意味でウグイと呼びます。北海道ではアカハラ、九州ではイダ、そして長野県では産卵期に腹に赤い縞が現れることから「アカウオ」といった地方名があります。

千曲川中流の佐久市から上田市、千曲市、長野市にかけてでは、産卵期の4月〜6月につけ場漁が行われます。つけ場漁には、マヤ、揚げ川などの方法があります。

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投網を使う漁
マヤは本流に堰き止めを直角に近い形で出し、マナゴ(小石のことでバラスともいう)を多量に入れて、それが絶えず下流に転んで流れるようにします。ウグイはそのマナゴに伝わってマヤに集まるため、それを投網で捕獲します。

 

置き網を使う漁
揚げ川は、本流に沿って人工川(揚げ川)を作り、その再上部に水量を調節する仕掛けとオトリのウグイ雌雄を箱に入れて、きれいな砂利を敷き詰めて産卵床を作ります。本流から揚げ川をさかのぼってくるウグイを、産卵場所の下に仕掛けた置き網を使って捕獲します。

旅の人は知らない
つけ場小屋は、明治初年に千曲市の戸倉温泉の造り酒屋が始めたと言われていますが、観光として広がったのは昭和10年代半ばとも言われています。tukeba4.jpg明治30年代に小諸市に住んでいた島崎藤村も『千曲川スケッチ』に「小諸辺ではハヤがよく獲れるが、土地の人たちが千曲川に酒を下げて行って、川から釣ったばかりのハヤを魚田にして味わうなど、ちょっと旅の人の知らないところだ」と書いています。

最近は、下水道の整備などで水質もだいぶ良くなっていますが、若い世代に川魚を食べる習慣が少なくなっています。つけ場小屋は季節営業で、労力もかかるため、年々数が減っているのが現状です。歴史ある地域の初夏の風物詩として、続いてほしいと願わずにはいられません。

千曲川の河畔にアカシアの花が咲く頃に、ウグイ漁はピークを迎えます。

【参考情報】

千曲川つけ場小屋一覧

佐久漁業協同組合(TEL 0267-62-0764)管内
 「魚とよ」      佐久市中込       TEL 0267-62-8723
 「あわじ」      佐久市中込       TEL 0267-62-7538
 「天なか食堂」    佐久市岩村田相生町   TEL 0267-67-2128
 「竹の家」      佐久市塩名田      TEL 0267-58-2727
 「井出おとり店」   佐久市野沢原      TEL 090-4916-3534

上小漁業協同組合(TEL 0268-22-0813)管内
 「半過ヤナ」     上田市半過       TEL 0268-25-0903
 「中山ヤナ」     上田市下之条      TEL 0268-27-0883
 「まるみつ」     上田市古舟橋下     TEL 0268-21-3088
 「魚まさ」      上田市飯島       TEL 0268-23-5987
 「つちだ屋」     上田市上田橋下     TEL 0268-24-9223
 「北条ヤナ」     上田市諏訪形      TEL 0268-24-9316
 「川魚やまべ」    上田市小牧橋下     TEL 0268-24-6680
 「ひばち屋」     上田市乗越       TEL 0268-24-7418
 「佐藤清吉」     上田市神川合流     TEL 090-2653-4881
 「高野つり具店」   上田市石井       TEL 0268-35-0131
 「うめや料理店」   上田市石井       TEL 0268-35-0135
 「あゆ友」      東御市中島       TEL 0268-36-0735
 「金井屋」      上田市丸子三角橋下   TEL 0268-42-5502

更埴漁業協同組合(TEL 026-275-1536)管内
 「宮原つけ場小屋」  埴科郡坂城町南条鼠   TEL 0268-82-6196
 「宮原辰信」     埴科郡坂城町網掛    TEL 0268-82-2388
 「魚とし鮎小屋」   埴科郡坂城町坂城田町  TEL 0268-82-8342
 「正村」       千曲市戸倉上山田温泉  TEL 026-275-1741
 「季節料理 川萬寿」  千曲市戸倉上山田温泉  TEL 026-275-0019
 「宮入宏夫」     千曲市戸倉       TEL 026-275-3197
 「和田繁安」     千曲市桑原       TEL 026-276-7081
 「米山良男」     長野市篠ノ井市岡田   TEL 026-292-0431
 「青木利晴」     長野市松代町      TEL 026-278-2931
 「相沢愛策」     長野市篠ノ井西寺尾   TEL 026-292-6120

千曲川漁業協同組合(TEL 026-245-2136)管内
 「小山産業つけ場」  須坂市村山       TEL 026-263-7114


arrow2.gif ウグイに関する話題「16年ぶりに絶滅危惧種のウケクチウグイを確認」(5月9日付)信濃毎日新聞Webサイトから

arrow2.gif ウグイの生態について長野県水産試験場佐久支場「ウグイの話」

 


 

参考資料
「信州ふるさとの食材」監修:武田徹、編著:長野県商工会女性部連合会、発行ほおずき書籍、販売星雲社 「千曲川・犀川三十年のあゆみ」昭和55年3月26日建設省北陸地方建設局千曲川工事事務所、(株)山海堂刊行 「信濃の巨流 千曲川」平成5年2月24日建設省北陸地方建設局千曲川工事事務所、銀河書房刊行

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