善光寺平用水は、長野市北部市街地を流れる用水(川)の総称です。北から鐘鋳川(かないがわ、鐘鋳堰=かないせぎ)、八幡川(八幡堰)、四ヶ郷用水などがあります。農水省の疎水百選にも選ばれています。
「一遍上人絵伝」にも描かれた水路
人工の堰が川とも呼ばれるのは、長い歴史の中で用水としての意識が薄れた面もあるのでしょう。善光寺平用水は、市街地のほうが上流で、灌漑する農地が下流側にある珍しい用水形態であるせいかもしれません。 鐘鋳川を例にとれば、裾花川、湯福川、浅川の複合扇状地上に形成された長野市街地にあって、扇状地上部の等高線に沿う形で流路が築かれており、自然河川でないことは明らかです。最近まで逆勾配で堰上げして流している区間すら残っていました。
善光寺門前町としての長野市街地の歴史とも深く関わっており、興味が尽きません。鎌倉時代の「一遍上人絵伝」(一遍聖絵)には、善光寺を訪れた一遍の姿とともに描かれており、歴史を感じさせます。
県営の小水力発電所に活用
南北二つに分かれる八幡川に代表される川筋は、裾花川の旧流路に重なっています。現在、市街地の西端を流れる裾花川は、江戸時代の初め、徳川家康の六男松平忠輝の家臣で松代城代だった花井吉成・義雄親子による瀬替えの結果と言われています。同じころ四ヶ郷用水は犀川から取水許可を得て造られたとされています。
中部電力里島発電所
放流路下にある取水口
現在の取水の様子を訪ねてみましょう。鐘鋳川と八幡川はそれぞれ裾花川(左岸)から独自に取水、限られた水をめぐり争いもありましたが、現在は右岸側、里島地籍の中部電力里島発電所の放流路直下で一緒に取水しています(写真右)。川底をもぐる落差を利用して2016年に40kWの小水力発電機を据え付けた、と案内板にあります。
湯ノ瀬地区の堰堤
貉郷路山(むじなごうろやま)
ちなみに、発電所の水はというと、上流、湯ノ瀬地区の堰堤から取水しています。下流左岸側に貫入岩体の姿が特徴的な貉郷路山(むじなごうろやま)の姿が望めます。
以前の取水口だった頭首工
以前の取水口だった頭首工は里島の取水口から600mほど下流、長野市中部勤労青少年ホームの脇に残っています。里島の取水口が使えなくなった場合に備えて残してあるそうです。
人知れず暗渠化し逆勾配を解消した難所も
裾花川右岸の里島地籍で取水した水は地下を通って、頭首工のすぐ下流で段丘崖から顔を出します。
八幡山王堰
160mほど流れて、鐘鋳川と八幡川などに至る八幡山王堰に分かれます(鐘鋳分水工)。写真では左が鐘鋳川、右が八幡山王堰です。この鐘鋳川の始まり部分は最後まで逆勾配の難所でしたが、2009年、古くなった分水工を新しくすると同時に暗渠化して逆勾配を解消しました。トンネルになってしまったわけですね。その分、歴史的な用水路は人目に付かなくなりました。
大口分水工
一方、八幡山王堰は途中、裾花川右岸を潤す裾花用水への分水を経て県庁西側の大口分水工に至ります。
途中の水路はホタル舞う用水として整備されています。大口分水工で分かれたそれぞれの用水は市街地の中を流れ下り、一部は四ヶ郷用水に注ぎながら、最終的に犀川や千曲川に流れ込みます。市街地では暗渠になっている部分が多いので、たどるのは大変ですが、意欲のある方は挑戦してみてください。
もっぱら裾花川の水に頼ってきた鐘鋳川や八幡川およびそれらから派生する諸河川(まとめて善光寺用水)でしたが、十分な水量を確保するには至りませんでした。そこで犀川から水を引くことが考えられました。
東京電力小田切ダム 放水口
現在は東京電力小田切ダムの左岸、発電所の放水口から川中島平側の下堰などとともに取水しています。なお、下堰と合わせて犀口三堰と呼ばれる川中島平の上堰、中堰は同ダム右岸から取水しています。
農業用水の安定供給のため、新しいサイホンも
小田切ダム直下、両郡橋から国道19号を長野市街地に向かいましょう。
対岸に山際の岩盤をくり抜いたかつての上中堰の水路だった跡が見えます。
左右岸分水工
新設されたサイホン
ロックシェードを抜けて進むと山際に、善光寺平用水と川中島平向けに分ける「左右岸分水工」が見えます(写真左)。以前はここからサイホンで対岸の川中島側に送っていましたが、犀川の川床低下で導水管が破壊される恐れが出てきたため、今世紀初め、200mほど下流側に新たなサイホンが造られました(写真右)。
善光寺平用水は、この脇を流れ、一旦地上に出た後、犀北団地の西側で善光寺用水犀川幹線と四ヶ郷導水路に分かれ、地下をそれぞれ裾花川左岸に向かいます。
善光寺用水犀川幹線は大口分水工から流れ下る宮川、計渇川、古川、南八幡川などを潤し、最終的に北八幡川に至りますが、地上ではほとんど確認できません。
JR長野駅東口の駅前交差点・栗田緑地帯
最も分かりやすいのはJR長野駅東口の駅前交差点の中にある栗田緑地帯でしょう。北側、歩道橋の向こうに新幹線ホームを望む緑地に湧き出す水が望めます。
四ヶ郷導水路
一方、四ヶ郷導水路は丹波島橋北詰めの東で地上に出てきます。ここから四ヶ郷用水です。
先人の苦労のほんの入り口を紹介しました。現場は細い路地や農道がほとんどなので、近づく際には転落することなどがないよう十分注意してください。(昭和人Ⅱ)
■参考リンク
善光寺平に水を導いた人々(長野県Webサイト)
遺産