新型コロナウイルスの流行で外食やイベント関連の需要が激減、農産物の販売も大きな影響を受けました。一方で、消費者に直接届ける手段としてインターネットを通じた販売が改めて脚光を浴びています。JAらしく一段と新鮮な農産物を届けようと奮闘した舞台裏を担当者らに聞きました。
合併効果を生かす
昨年9月からスタートしたJAながののオンラインショップ「たーんとながの」
JAながのは2020年9月から「たーんとながの」と名付けた公式農産物オンラインショップを始めました。長野県北部地域の5JAが合併して5年を迎える同JA。リンゴだけでも13カ所ある共選所ごとに対応していた贈答品などの注文受け付けを1カ所にまとめ、合理化すると同時に、「各ブロック共選所ごとの顧客に、JAながのの全産品に目を向けるきっかけにもしてもらいたい」(小林俊一販売企画課長)との狙いがありました。
新設したカスタマーセンターに注文や問い合わせが集中、一時、人員体制を倍増させて対応する場面もありました。「システムを整備しながらの船出で、『もう少し注文もとれたかな』との思いもありますが、初年度としてはまずまずの実績が残せました。スタートの年で、旬の果物はブドウとリンゴだけでしたが、JAながのにはそれ以外の農産物もたくさんあります。お客さんの求める形で、企画やセット物を立ち上げ、ネット販売を定着させたい」と小林課長は意気込んでいます。
生産支援の足掛かり
農産物のネット販売は以前から全農の「JAタウン」があり、その中で全農長野が長野県ショップ「僕らはおいしい応援団」を展開しています。2020年度から窓口を販売開発課に移し、対応を本格化させました。昨年度の実績は2021年1月末段階で前年比160%。特にコロナ禍で需要が激減した切り花や牛肉の販売でキャンペーンを張り「ネットを通じて販売の支援をすることで生産者の応援ができることが分かった」(井出光俊生産販売部専任部長・販売開発課長)と手応えを語っています。
同タウンに出品する形でネット販売に進出しているJAもあります。JA上伊那はその一つ。昨年度、機構改革で専門部署(販売戦略課)を設置、ネット販売にも本腰を入れました。注文を受け、実際の発送作業を担ったのは直売所「ファーマーズ あじーな」です。担当した征矢佳代子さんが振り返ります。
直売所の採れたて野菜
ネットで注文を受け、箱詰め作業をするJA上伊那の直売所「ファーマーズあじーな」の征矢佳代子さん
「販売戦略課と当時の店長の提案で、直売所にその日の朝持ち込まれる新鮮な野菜を詰め合わせにした『朝どれの野菜ボックス』を販売しました。始めた昨春(2020年)は非常事態宣言が出され、東京などでは買い物にも苦労したのでしょう。首都圏を中心に大きな反響がありました。夏ならキュウリやトマト、トウモロコシといった定番を中心に、生で皮ごと食べられるカボチャ、コリンキーのような、上伊那らしくて少し珍しい、旬のものを彩りを考えながら詰め合わせました」
「持ち込まれる品から作るので、『限定10セット』のような形にせざるを得ませんでした。今年度は生産者にも声をかけるなど、お客様の要望に応えられる態勢ができたら」とも。その上で「全国のJAからの出品が並ぶ中、JA上伊那としても、おいしい商品を自信を持って出荷していきます」と、新年度の意気込みを語ってくれました。
JAならではの付加価値
サイネリア(花き)の販売に向けて生産者と打ち合わせるJAグリーン長野生産販売部販売課の鳥羽裕敏調査役(右)
JAグリーン長野は昨年(2020年)度、販売選任担当者(生産販売部販売課・鳥羽裕敏調査役)を置き、JAタウンで試験販売に乗り出しました。
鳥羽さんは「当JAと取引のない方が相手。どんな需要があるのか、手探りの進出だった」と振り返ります。「まずはグリーン長野の得意とする品目を知ってもらい、そこから他の品目の販売につなげよう」と計画。「独自アイテムを企画し、個別に注文発送に対応することは、小売店なら当然のことですが、市場を主とするJAの共選所では、なかなか難しい面がありました」とも。
JAグリーン長野はネット販売向けにリパックセンターを開設、小口配送に対応している
そこで、各種品目が一挙に集まるJAだからこそできる付加価値販売を意識。モモは「川中島白桃」と「黄金桃」を、リンゴなら長野県オリジナルの品種をセットにしたアイテム、アンズは「品種食べ比べセット」などを一定の量を確保して販売しました。結果、コロナの巣ごもり需要も追い風に、目標の1.5倍を売り上げ、手応えをつかんでいます。
管内では少量の花のインターネット販売にも着手し「『ニッチな市場』があることにも気付いた」という鳥羽さん。「今まで少量だからと市場に相手にされにくかった品目も、インターネットなら十分に戦える」と、JAに出荷されていない品目や少量品目の出荷を若手生産者を対象に呼び掛け始めています。
「産直」を磨く
JAみなみ信州のオンラインストアでは特産のダリアの花束などが好評。若手生産者の意欲を後押ししている
直接、消費者向けに販売する課題にいち早く取り組み、成果を上げているのがJAみなみ信州農産物総合DMセンターです。同センターは10年以上前から楽天市場に出店する一方、2019年度から独自サイトも展開しています。管内の市町村のふるさと納税の返礼品を受託することで消費者対応の腕を磨いてきました。
「花きでは青年部と初めて連携し、パッケージから新たに検討し、配送試験までして備えました。大手スーパーへの売り込みに成功する一方、都内の大手花店の産直コーナーにも加えていただけました。新しい流通が生まれたことで、コロナ禍で消沈していた青年部の気持ちが少しは晴れたと思います。ただ、花の通販でも先行者は多く、競争は厳しいのが現実です。もう一工夫が必要だと考えています」と内山清彦センター長。
JAみなみ信州農産物総合DMセンター内に設けた撮影スタジオ。旬に合わせた素早い対応を可能にしている
自社サイトの展開に合わせて、センターの一角に写真撮影用のスタジオも整備しました。急な企画でも、生産者からサンプルをもらい、すぐに撮影してホームページに反映することができる体制を整えています。今後は拡大する直接消費者向け(BtoC)の需要に対応できるように「選果場で消費者ニーズにそった出荷荷作りの体制の整備が進めば、産地直送の付加価値をいっそう高めることができます。そのための施設改善の論議も進めているところです」(内山センター長)と意欲的です。
コロナ禍をきっかけに農産物の出荷態勢も見直しが進むようです。