長野県の北西部、北アルプスを擁する大町市は、立山黒部アルペンルートの入口にあたり、豊富な雪どけ水が育むお米の産地であり、ウインタースポーツや登山に絶好の地でもあります。
この大町市で中学生が作る調味料「マチスコ」が、徐々に人気を広げています。自分たちで育てたとうがらしを学校内で加工して、充填からラベル貼りまで行っています。
マチスコを作るのは、大町市立大町中学校のこぶし学級の子どもたち。彼らの担任である田中祐貴先生に、マチスコについて、そして子どもと地域の交流について話をうかがいました。

マチスコ作りのきっかけ
マチスコが誕生したのは4年前。田中先生が大町中学校に赴任したことがきっかけです。
「僕はこの学校が母校なので、地元に戻ることになったんですが、久々に地元の様子を見てみると、遊休耕作地が増加して景色はさびしくなって、少子高齢化でこの学校も合併していて…」(以下、田中先生)
大町中学校は2023年に第一中学校と仁科台中学校が合併して開校しました。
「もっと地域を元気にして、人を増やすような活動はできないかと考えたんです」
大町中学校(写真は大町中学校ホームページより)
以前の赴任先である伊那の中学校でも取り組んでいたとうがらし栽培で何かできないかと考え、担任となった「こぶし学級」の子どもたちとともに、とうがらしを使った町おこしの取り組みをはじめました。
こぶし学級は現在、男子7名、女子3名の計10名。「それぞれの得意不得意に合わせて作業を振り分けています」
それにしても、なぜとうがらしなんですか?
「実ったとうがらしは赤くてサルビアの花みたいできれいなんですよ。遊休農地にとうがらしを植えることで景観も良くなると思ったんです」
栽培中は鳥獣害に遭いにくく、乾燥させれば2年は保存が利くのも理由とのこと。
学校前の畑、収穫期のとうがらしはサルビアの花が咲いているよう
とうがらしを育て、地域とつながる
マチスコの原料である「八房(やつふさ)とうがらし」は鷹の爪のように実るとうがらしで、辛みと風味が特徴です。田中先生が栽培をはじめてから、ずっと種をつないできました。
収穫した八房とうがらし
とうがらしを栽培していると、近所の人が手伝ってくれたり、「近くの耕作放棄地を使っていいよ」と声をかけてくれたり、地域の人たちとの交流がはじまりました。
ひと株の苗が今や2700株に。とうがらしが増えるとともに、子どもたちと地域のつながりは深まっていました。
ここで、収穫までの様子を追って紹介します。

4月、畑づくり。学校前の空き地を耕します。

5月、マルチを敷きます。

3月に種から育てた苗をポットから定植します。無農薬栽培にこだわり、堆肥も地元で作られたものを使います。

10~11月、収穫。

洗って土やほこりを落としたら、ビニールハウスで乾燥させます。
「農家さんが畑の整備を手伝ってくださったり、栽培のノウハウを教えてくださったり。作業が拡大してくると、大町市社会福祉協議会の方にも参加してもらうようになりました」
地域の人たちと一緒に収穫作業
最初は土を触るのを嫌がっていた子も、自分が育てたものが形になるのを見るうちに徐々に変わってくるそう。
「近所の年配の方が気さくに話してかけてくださるんです。農作業をとおして、うまく話せなかった子が話すことに慣れていく。地域の人に育ててもらっているなと感じます」

校内の調理室で加工から充填まで
収穫したとうがらしは、保健所の許可を得て、校内の調理室で加工します。 この作業も子どもたちが行います。
とうがらしをミキサーで粉砕
ニンニクも入れます!こちらも自家栽培
「じつは、レシピは地域の方からの提案なんです。地元紙の『大町タイムス』でとうがらし栽培の活動を紹介する記事を見て、レシピを送ってくださった方がいらしたんです。それをきっかけに、やってみようということになって」
材料は、とうがらし、ニンニク、リンゴ酢、食塩。市販のタバスコ®とは原材料が異なります。
「辛みは強くなく、風味があるのが特徴だと思います。辛さは年によってちがい、雨量や日照時間に関係しています。水をたくさんあげると辛みが薄まりますね。毎年が研究です」

できあがったマチスコは、ラベル貼りまで子どもたちの手で行います。
自分たちの手でお客さんに販売する
学校の調理室での加工、瓶詰め、ラベル貼りまで子どもたちの手で行い、そうしてできたマチスコは、学校の参観日や地域のイベントで販売します。

「参観日での販売は大人気で、すごい行列ができるんですよ。参観日には参加しなくても、わざわざ買いに来る保護者がいるくらい(笑)」
校内での販売風景
現在はJA大北農産物直売所などで販売しており、ここでの収益はともに作業する大町市社会福祉協議会へ。
参観日など手売りで得た収益は、作業費用に充てるほか、クリスマス会に使ったり、子どもたちのおやつ代として500円ずつ渡したり。
「自分たちでとうがらしを育て、マチスコを作って、自分たちで売って得たお金で買い物するのは、子どもたちにとって達成感があるようです」
イベントでも子どもたちが店頭に立ってマチスコを売ります
PRもしっかりと!
地域と関わり続けるために
「人とのコミュニケーションが苦手な生徒も、がんばって店頭に立って、お客さんに『おいしかったよ』 『ありがとう」と声をかけていただくことで、話せるようになっていく。農作業もそうですが、地域の方との交流の中で、子どもたちが成長していくのを感じます」
田中先生(下左端)とこぶし学級の子どもたち

最後に今後の展望をたずねました。
「おかげさまで、かなりの個数が売れるようになりましたが、商売にしようとは思っていません。子どもたちが自分たちで『地域のために何ができるのか』を考え続ける活動にしていきたいですね」
こぶし学級の子どもたちを見守る田中先生
自らの手で「育てる・作る・売る」ことで、地域を元気にしようと挑戦する田中先生と子どもたちが作るマチスコから、目が離せません!
マチスコでもっとおいしく!
さて、気になるのはそのお味。マチスコのおいしい食べ方を紹介します!
ややもったりとした液状。液だれがしないのが◎
マチスコ:マヨネーズ=1:1の万能ソース
先生イチオシ。野菜スティックや唐揚げに合わせるのがおすすめ。実際に食べてみましたが、激旨です。
唐揚げにつけてみました。さっぱりとした後味になります!
カレーに添えて味変!
筆者おすすめ。さらっとしたスープカレーと相性抜群!(じつは大町市から通勤している職員に教えてもらった使い方です)
カレーのスパイシーな味わいが引き立ちます
もちろん、普通のタバスコ®同様、ピザやパスタ、ホットドッグなどにかけても良し。
餃子のタレにいれるのもおいしいとのこと(前述の大町市在住の職員より)。
クラスのみんなで作ったピザでマチスコ堪能!
市販のタバスコ®とは味わいが異なり、辛すぎず、旨みがあるので、ついかけすぎてしまいます(筆者は痛い目に遭いました…)。しっかりと辛みがあるので、調節しながらご使用くださいね(自戒を込めて)。
みなさまもぜひ大町中学校発のマチスコを味わってみてください!
子どもたちを見守る赤色