どんぐりはわたしたちに大切なものを伝える

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むかし、食べ物が十分にない頃、信州の西にある「王滝村」に住む人々の命を救った食べ物がありました。その名は「ひだみ」。「ひだみ」とは、この村の方言で「どんぐり」のことをいいます。

長期保存が可能などんぐりは、歴史以前の環太平洋先住民文化においては重要な食物のひとつでした。韓国にも今でも料理として残っていますし、カリフォルニアの先住インディアンの伝統文化は「どんぐり文化」と呼べるほどどんぐりが食の中心にありました。日本列島でも縄文時代にはたくさん食べられていたのです。

でも、「どんぐり」っていったい、どういう味がするのでしょう? そもそも、食用としての「どんぐり」を初めて知る人もいるかもしれません。

誰がどんぐりを大切にしてきたか
どんぐりはすこぶる栄養価に富み、18%が脂肪で、6%がタンパク質、68%が炭水化物で、ビタミンA、Cをはじめアミノ酸を多く含みます。古代には集団によっては年間に1トン以上のどんぐりを消費した人たちもいたとか。中世以降も、飢餓や食糧難に備える非常食として大切にされたのです。どんぐりはこの山と川と森の地方でも、自然をよく知る人々に世代を超えて大切にされてきました。

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そんな「どんぐり」を使った郷土食やお菓子を作って、提供している小さなお店が、王滝村にある御嶽山のふもとにあります。郷土料理「ひだみ」です。一粒のどんぐりのなかに巨木を育てる力がこめられているように、「どんぐり」という名前のこの小さなお店にも、大きな役割がこめられているような気がします。

「どんぐりコーヒー」をください
深い落葉広葉樹の森に囲まれた、静かな静かなそのお店にうかがい、まずは「どんぐりコーヒー」をいただきました。

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香ばしい匂いがして、口に含むと、まったりとした独特の味わいです。

このお店では他にも、「どんぐり」を使ったお菓子や「どんぐり」を使った揚げ餅など、工夫を凝らしたメニューがそろっています。

郷土料理「ひだみ」を切り盛りするのは、瀬戸美恵子(せとみえこ)さん、田中初子(たなかはつこ)さんのおふたり。古代から伝わる山国の味は、おふたりの知恵によって新たな形で再び世に生み出されていました。

どんぐりを食べるために必要な伝統的な知恵
おふたりにとって「どんぐり」は幼い頃から身近な食材だったそうで、お腹を壊したときに母親から「どんぐり」の粉を葛湯のようにして食べるように言われたこともあるそうです。

じつは「どんぐり」を食べるには一苦労があります。タンニンやサポニンの成分が多いためにアクが強く、わたしたちが口にできるようになるまでには時間と手間を必要とします。

収穫は秋にします。必要なだけ集めたら、まず、どんぐりの皮を剥きやすくするため、芽だしをします。次に虫殺しと乾燥を早くさせるため、一度ゆでてから太陽の下で十分に干します。そして皮むきをします。

この皮むきの作業は麻の袋"どんごろす"に「どんぐり」を入れて、踏んだり、たたいたりして皮と実に分ける作業です。そしてそれから再度水に浸し、皮を取り除きます。

どんぐりの調理方法はこれで終わりではありません。まだ続きます。今度は皮を剥いた実を一晩水につけ、今度はナラの木の灰か重曹を使って、アク抜きをします。

そしてやわらかくなるまでじっくり煮るのです。さて、これでおしまいかというと、これでもおしまいではありません。次にこの実を粉にしてふるいにかけ、さらに皮や虫食いを取り除いていきます。こうしてやっとどんぐりがさまざまなお料理やお菓子に使えるようになるのです。

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どんぐりで儲けようとは思っていません
おススメのお菓子は、どんぐり粉を100%使って作ったあんこ入りの「どんぐりぱん」と「どんぐりぱい」。どんぐりは"相手"を引き立ててくれる存在だとか。他にも、最近やっと完成したという「どんぐりサブレ」、また「どんぐりシフォンケーキ」、米粉をつかった「米粉焼き」、「ひだみドーナッツ」「ひだみまんじゅう」などもあります。これらのお菓子は通信販売で購入可能です。

どんぐりが教えてくれること
「動物の食べ物なのに、どうして人間が食べてしまうの?」

ある人が瀬戸さんに尋ねたそうです。瀬戸さんはこう答えました。

「山の恵みを少しだけいただいているの。決して全部食べてしまおうなんて思っていないし、あくまで動物たちと一緒に生きているって思って、大切にいただいているんですよ」

また、記者にはこのように話してくれました。

「どんぐりからは、お金でないものをもらいました。"人とのつながり"や"続けるということの大切さ"です。本気で"どんぐりで儲けよう"とも思わないんです。あくまで先祖から伝わる知恵を受け継いで、動物たちと共存していこうっていう思いなんです。なんて言えばいいかな、どんぐりは気持ちをやさしくしてくれます。どんぐりを通じて、わたしたちが大切にしているものが、みなさんに少しでも伝われば幸せです」

Access to :

郷土料理「ひだみ」

〒397−0201
長野県木曽郡王滝村3153−2
TEL/FAX 0264−48−2648
ホームページ

※お食事の際は事前予約が必要です。

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